焚火のススで黒くなった鍋を磨くのは、いつも持ち主だ。<はしもといわお・アウトドアの掟>

コラム

 
シラネアオイとフラスコ
 

シラネアオイ

シラネアオイ


 20年以上前、ちょうど今の私くらいの歳の方と一緒に山を歩く機会がありました。ちなみにその方をT氏と呼びましょう。
 
 それは谷川岳の谷を挟んだ反対側にある朝日岳に、宝川方面からT氏と二人で登った時のことです。前日に車でいけるところまで行き、そこでキャンプをしました。 まだ焚き火を覚える前のことで、次の日の朝日岳の花がメインでした。少しアルコールを入れて、早めにシュラフに包まりました。
 翌日は早くに起き、テントを車にしまうと、早速歩き始めました。あまりメジャーな山でもルートでもないので、登山道もしっかりしていませんでした。崩れた崖をヘズり、雪解けの冷たい沢を渡渉し、初心者にはかなりきつい行程でした。
 そんな中、沢の脇でシラネアオイの一群を見つけた時は飛び上がって歓びました。野生のシラネアオイを見たのは初めてでしたから。私ははしゃいで、写真を撮りまくっていました。 T氏は、そんな私をニコニコしながら岩に腰掛けて見守っていました。
 気のすむまで写真を撮った私がT氏の方を振り返ると、T氏はウイスキーのポケットビンのような物を口にしていました。革のケースに入ったそれがフラスコ(スキットル)だったのです。
 『カッコいい』と、思いました。私ももう少し年をとったらあれを持とう。そう誓ったのです。で、結局年をとるまで待てずに、すぐに買ってしまいましたが。
 その朝日岳のことはもう断片的にしか思い出せません。遠い昔のことですから。でも、その時のシラネアオイとT氏のフラスコ(スキットル)のことだけは今でも鮮明に覚えています。