焚き火料理に鍋を貸した人は家に帰ってからたっぷり2時間キャンプの思い出に浸ることができる。<はしもといわお・アウトドアの掟>

コラム

 
少年とナイフ
 
尾瀬
 夕食時には少しはやい時間、私はナイフで箸を作っていました。左の膝から腿に厚い皮製の四角い布を掛け、そこに材料の枝を押さえるようにして、削っていました。 この皮製の布はこうして作業をするときだけでなく、時には座布団代わりにもなり、重宝するものでした。
 研ぎ澄まされたナイフは舐めるように枝を削いでいきました。あっという間に一膳の箸ができました。つづいてもう一膳。
 気がつくと、私の前には一人の少年がしゃがみこみ、興味深げに私のすることを見ていました。幼稚園か小学校低学年か、そんな歳の少年でした。
 私が作業の手を止めると、少年は視線を私の方に向けました。私は優しく微笑んで、今できたばかりの箸をその少年に渡そうとしました。しかし少年は首を横に振り、視線をナイフに向けました。少年の興味は箸ではなくナイフだったのです。小さくても男は、できた品物よりも、作る過程や作る道具に興味があるのだな、と感心させられました。特にナイフは格別なのかもしれません。
 今でこそナイフなど刃物は悪役ですが、一昔前までは必需品だったのです。何で、こんな世の中になってしまったのか。と、今時の風潮を嘆く<@峰>でした。・・・これは脱線しました。
 「触ってみるか」
と、私は少年の前にナイフを差し出しました。少年は飛び上がって後ずさりしました。ナイフが危ないものだというのはわかっているようです。危ないけれど大事なもの。その少年は彼なりによく理解しているようでした。
 私はもう一度、箸を少年に渡そうと差し出して、にこりと笑って見せました。今度は少年もその箸を受け取ると。素直に
 「ありがとう」
と言って、駈けて去って行きました。