Tシャツの替えは余り、パンツの替えは足りなくなる。<はしもといわお・アウトドアの掟>

尾瀬・幻想の光

尾瀬ヶ原

 尾瀬に通い始めて20年以上が経ちます。はじめはもちろん花が目当てでした。しかし、尾瀬はそれだけで済まされる場所ではありませんでした。人が多いのはやはりうんざりします。でも、なるべくそれを避け、やはり毎年出かけてしまいます。それ程の魅力があるのです。
 
 それは尾瀬に初雪の降った日のことでした。
 裏燧を通って、尾瀬ヶ原に入り、その夜は見晴十字路の山小屋に泊まりました。さすがにひと頃の賑わいはありませんでしたが、今年最後の尾瀬を、という人たちが結構泊まっていました。
 山小屋について、一息ついた頃、静かな外ではちらほらと雪が降りはじめていました。少しして、誰かがそれに気づき、
 「雪ですよ」と、つぶやきました。
 何故か心が高鳴りました。寒さは好きではありませんが雪は好きです。しかも尾瀬での雪です。何かがありそうな、そんな予感です。
 「ちょっと、体を温めてから外に出てみましょう」
 同行者とウイスキーを生のままキャップで二杯ほどひっかけ、カメラを持って外に出かけました。本来ならちょうど日が沈む頃でしょう。しかし、闇の力のほうが明らかに勝っていました。
 雪は音もなく、ゆっくりと落ちていました。しかし、視界を遮るほどの雪ではありませんでした。まだ、尾瀬ヶ原の周りの山は雲に覆われていない部分は見えていました。広い場所を求めて、尾瀬ヶ原に少し入った時、そのショーは始まりました。
 暗いけれども白い世界。その奥に、輝く世界があったのです。それはおそらく、薄い雲のあたりなのでしょう。その日の最後の光りがそこに集まったように、白く、いや青く、いや紫に輝いていたのです。幻想の世界を垣間見るなんて事はそうそうあることではありません。しかしその瞬間は確かに幻想的でした。降る雪がソフトフォーカスのような効果を作り出していたのでしょう。
 息をのみ、同行者と言葉を交わすこともありませんでした。ただ見つめるだけでした。やっと気づいてカメラを構えましたが、メインの瞬間は終わっていました。その残骸をやっとフィルムに収めただけでした。